2026年7月中旬
南アルプス水系
フィールドスタッフ 松井 有志
今回の釣行で狙ったのは、日本固有のイワナであるヤマトイワナ。
ヤマトイワナは、氷期と間氷期を幾度も越えながら、冷たい水を求めて源流部へ退き、分水嶺の奥で独自の姿を残してきたと考えられている。
中部地方に残る系統には、数十万年前まで遡る隔離の歴史があるともいわれている。そう考えると、目の前を流れる小さな渓にも、私たちの想像を遥かに超える時間が積み重なっていることになる。
今回の目的は、そんな長い歴史をつないできたヤマトイワナに出会うことだった。
【 渇水と人的プレッシャー】
釣行時の渓流は渇水傾向。
水量が少ないことで魚の着き場が限られ、さらに人的プレッシャーも加わり、ただルアーを通すだけでは簡単に反応してくれない状況だった。
今回のアプローチで特に意識したのが、「レンジ」と「ピン」の二つ。
渇水時はルアーを追える距離が短くなりやすい。魚が着いている場所から少しでもコースを外せば、ルアーの存在に気付かない、あるいは気付いても追い切らないことが多い。
そのため、魚が身を寄せているであろう限られたピンへ正確にルアーを送り込み、その中を適切なレンジで通す必要があった。
着水地点だけでなく、そこからどの角度でレンジへ入れ、どの軌道でルアーを引いてくるのか。ピンの中で魚に見せられる時間を、いかに長く作れるかが重要だった。
【リッジ56Fからリッジディープ56Fへ】
まず選択したのは、リッジ56F。
渇水気味のため、最初からレンジを入れすぎるとボトムや障害物へ接触しやすく、魚に対してプレッシャーをかけすぎてしまう可能性がある。
リッジ56Fは高いアクションレスポンスとレンジキープ力を備え、トレースできる距離が短い小渓流でも、着水後から素早くアクションを立ち上げられる。今回のような渇水状況では、最初に選びやすいルアーの一つだ。
実際に魚からの反応は得られたものの、ミスバイトやバラシが続いた。
ルアーのサイズやアクションが大きく外れているわけではない。しかし、魚がしっかりと口を使うレンジに対して、あと少しだけ届いていないように感じた。
水深が浅いからといって、表層寄りのレンジだけで完結するとは限らない。
そこで、ルアーをリッジディープ56Fへ変更した。
リッジディープ56Fは廃盤となってしまったモデルだが、現在でも私の一軍ルアーである。
ノーマルのリッジ56Fが持つ優れたアクションレスポンスやレンジキープ力を活かしながら、その操作感を大きく変えることなく、狙う層だけを一段下げてくれる。
リッジ56Fで反応のあったピンへ再びルアーを送り込み、今度は先ほどより少し深いレンジをキープして通していく。
このわずかな調整がハマった。
限られたピンの中でルアーをしっかり見せることができ、狙い通りヤマトイワナと出会うことができた。
レンジの差はおそらく今回の流れだと30cmほどかと思われる。
しかし、プレッシャーの高い渓流では、その数十センチが魚の反応を大きく左右する。
廃盤となった今でも、リッジディープ56Fが私の一軍から外れない理由を、あらためて実感した釣行だった。
中古で見つけたら、とりあえず即買いです(笑)。
【 渓流に残された歴史を 】
今回出会ったのは、白い斑点が少なく、体側に朱色や橙色の斑点、そしてメタリックな艶かしさを纏うヤマトイワナらしい特徴を持つ個体。
さらに、ヤマトイワナとニッコウイワナ、双方の特徴を併せ持つように見える個体にも出会うことができた。
外見だけで系統や交雑を断定することはできないが、両者の血が混じった個体なのだろうか。
ヤマトらしい姿を強く残した個体も、二つの系統が重なったように見える個体も、今の渓流が抱えている歴史の一部なのだと思う。
氷期と間氷期を越え、長い時間をかけて分布を変えながら、それぞれの谷で命をつないできたイワナたち。
今回、釣果を分けたのは、ほんの数十センチのレンジ差だった。
しかし、その先で出会った魚が背負っている時間は、何万年、あるいは何十万年。
何十万年もの記憶をつないできた魚。
それは日本の渓の宝石のように、静かに、そして圧倒的に美しかった。
ルアー&カラー:
リッジ56F/317E.M/シャイニーライム
リッジディープ56F(生産終了モデル)







